65 堀坂山浅間祭礼

 

 松阪の堀坂山で祭礼が行われた。頂上は麓の村、伊勢寺、勢津、与原の関係者で埋められた。およそ50人は居ただろう。伊勢寺村では特に、別当と呼ばれる役員が、村からこの頂上に至るまでにある拝所に参拝して回った。拝所は、五町毎に置かれる大日如来の像や石碑、山の神、水場などを奉っている。

 過去の祭礼の記録を見ると、別当は富士登山の経験者であることが条件とされ、前週には村の川で垢離をとり、当日は約10キロ離れた松阪の湊、大口海岸にまで海水を汲みに行っていた。また竹弊をこの頂上に運ぶ参加者は、「吉田湊を、そよそよと、南無浅間大菩薩」と富士参詣の道行き歌を歌っていたという。

 今では別当が富士登山の経験者である条件はないし、富士垢離に通じる水業もしていない。本物の富士山麓田子の浦で行われていたように、海岸からの登山も行われていない。それでもこの山は、好天時には富士が望め、今でも松阪市民からは伊勢富士として親しまれる富士信仰の山である。



別当:  オードノ コエヲ オカリマショー (大勢の声を借りましょう)

皆衆:  オー

別当:  モウイチド カリマショー (もう一度借りましょう)

皆衆:  オー

別当:  オーテ サイドメ (これで三度目)

皆衆:  オー


 別当の先導する掛け声に、伊勢寺の人々が「オー」と揃って応える。皆で大松明の煙に声を掛けるのは、虫送りを意識するのだろうか。それとも、過去の祭礼では、翌朝まで松明の火を絶やさず、その松明の光は里からでも眺めることが出来たというから、宝永年間にも噴火した火山である富士山と呼応させているのだろうか。

 20年前まで参加者は、翌朝まで頂上で日待ちして過ごし、富士とその側から登る日の出に手を合わせたという。

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